自分に向かって呪いの言葉を吐き続ける男の首を、ナイフで斬った。勢いよく血が噴き出し、互いを濡らす。
力の抜けていく男の体から、自身を引き抜いた。二人を繋いでいた透明な糸は、しばらくするとぷつりと切れた。
苛立ちが抑えられず、剣を握った。死体を床に転がし、切り刻む。
キリストという神を信じ、教えを信じ、その他の神と教えを憎んだ。死んだ男はイスラム教徒。殺すべき輩だった。
 
では何故、繋がりを求めた…?
男同士の行為は禁止されているはずだ。
いつも最後に相手を殺してしまうのは、自分のこの愚かな行いを隠すためか?
心には幾つもの問いが浮かんだ。だが、振り下ろされる剣は止まることはなかった。
 

 
奴隷商人タラルの放った弓は、屋根の上を走るアサシンの肩をかすめた。
弓の力に引きずられ、体勢を崩した体が地に墜ちる。受け身を取り、即座に走り出そうとしたが足がもつれた。
体の異変に気がつくのにそう時間はかからなかった。肩に力が入らない。矢には何かが塗ってあったのか、指先まで痺れてきた。だんだんと動かない部分が広がっていく…。
 
後ろ手に縛られ、乱暴にタラルの前へと放り出された。動かない体、醒めている意識。殺そうとしたんだ、殺されてもおかしくはない。タラルに襟を掴まれ、フードを剥がされる。
睨むと、タラルは妙な表情を浮かべていた。
「…丁度良い奴隷ができたな。これなら頑丈そうだ…」
意味の判らない独り言。
「装備を奪って牢へ入れておけ。食料は与えなくていい。どうせ2-3日で死ぬからな」
 
手は後ろで縛られたまま足枷も付けられ、薄暗い牢へと放り込まれる。汚れた床。体はまだ痺れて自由にはならない。肩の痛みも、床の冷たさもまだ微かに感じる。この痺れはいつ消えるのか…俺はこれからどうなるのか。
考えたところで答えは出ない。目を、閉じることにした。
 

 
あれからどれくらい経ったのか…
暗い牢の中には陽の光さえ届かず、夜なのか昼なのかですら判らない。
腕に力を入れ、指先を動かしてみる。痺れは消え、感覚は戻っていた。
武器になりそうな物は全て奪われた。アサシンブレードを備えたガントレットにベルト、ブーツすら無い。自分に残されたのは一枚のローブと下着だけ。それが、床の冷たさから身を守っていた。
人の気配を感じて目を開ける。灯りを持った男が二人、鉄格子の前に立っていた。
鍵を開けて入ってきた男達に腕を掴まれ、牢から引きずり出される。
「歩け」
促されて従う。鎖で繋がれた足では逃げるのもままならない。従わなかった所で、無駄なあがきだ。
男の命じるまま階段を上がる。薄暗い地下牢から階上に出ると、満月が三人を迎えた。長い廊下を歩き、また更に階段を上がる。かなりの高さを持った建造物。明るい月は、三人の影をくっきりと映した。鎖が規則的な音を立て、闇に響いていた。
「お前も運が悪いよな」
歩きながら男の一人が言った。もう一人の男は鼻で笑っていた。
「あまり機嫌を損ねると生きたまま細切れにされるからな、せいぜい上手くやれよ。上手くやっても、駄目かもしれないがな」
ある扉の前で立ち止まる。
男がノックをして部屋へと入ると、中にはテーブルを挟んで向かい合い、二人の男が酒を酌み交わしていた。一人はタラル。もう一人は…ロベール・ド・サブレじゃないか!、あのエルサレムの神殿で見た顔。忘れられるわけがない。
しかし奴隷商人と現テンプル騎士団総長が何故ここに…。
 
「これが捕らえたアサシンか」
「えぇ、先ほど話に出たので連れてくるよう命じました」
ロベールの視線がアサシンの足下から上へと流れた。
タラルはその、ロベールの目の動きを見ると椅子から立ち上がり、扉へ向かった。部屋を出る前に立ち止まり、怪しい笑みを浮かべながらひとこと
「切り刻むなら、なるべく片付けやすい大きさにして下さい」
と告げ、アサシンを連れてきた男達と共に出て行った。
 
ランプが部屋の中を照らしていた。橙色の灯りに照らされるロベールの顔は恐ろしく、怪しく見えた。
…どうやら俺は、切り刻まれるらしい…
二人きりの部屋。目だけを動かし室内を探る。テーブルの上には残された瓶とコップ。葡萄酒の香りが微かにする。それに混じって、血の匂いもした。これは、この部屋についた匂いか。テーブルの脇には重そうな剣が鞘に入ったまま、立てかけてあった。
ロベールは何も言わずに、座ってアサシンを見ていた。鎖帷子は身につけず、騎士団の印すらないロープを身につけていた。
奥には窓と、西洋式の寝台があった。この辺りでは珍しい。ロベールのために?、ロベールはよくここに来ている…?
 
冷たい風が窓から流れ込み、ランプの炎が少し揺れる。
ロベールは椅子からゆっくり立ち上がると、アサシンの側に寄り、唐突に顔を殴った。抵抗できない体は為す術もなく床に倒れ込む。
すぐさま、ロベールを見上げて睨む。見下ろすロベールの瞳に、狂気を感じた。
「異端者よ、貴様の神を呪うが良い」
容赦のない蹴りが腹部に、胸に、何度も入る。
…この男はこうやって、異なる宗教の者をいたぶるのが趣味なのか…
そういえば、以前聞いたことがある。テンプル騎士団にはキリスト教しか認めず、他の宗教の者は殺しても構わない、むしろ殺すべきだと言う強硬派が居ると。
このまま蹴り殺されるのか、それともやはり切り刻まれるのか。
片手で襟首を掴まれ、部屋の奥へと引きずられる。そして寝台へと投げられた。人とは思えない強い力。体格は一回り違った。
アサシンの上へと、ロベールはのしかかった。
「名は何という?…まぁいい、名前などどうでもいい事か。殺して…そうだな、マシャフの近くに捨ててやろう。アル・ムアリムへの良い警告になるだろうからな」
そう言ってロベールはアサシンの顔をのぞき込んだ。
「…銀の瞳か。いつまでそうやって私を睨んでいられるかね…」
ロベールは楽しそうに笑った。
仰向けにされ、上に跨られる。後ろに縛られた両手首に二人分の体重がかかる。
耐えようと歯を食いしばった。
ローブを除けて、露わになった腹を撫でられる。
「鍛えられた体だな、無駄がない」
肌を滑る五つの指は堅い腹筋を撫で、更に下へと向かう。
 
この男が、何をしたいのかは想像がついた。禁欲的な修道士であり騎士であるはずのテンプル騎士団総長が、そういう趣味だったとはな。そして、終わったら相手を切り刻むのか…?
冷静に考えていた。身の危険を感じれば感じるほど、冷静になれた。この男が、俺の体を求めている限り俺は生かされる。その間に、逃げる隙を見つける…
せめて脚さえ自由になれば、窓から飛べる。その先が天国だろうとも。
 
「落ち着いているな。それとも恐怖で身がすくんでいるのか?…抵抗したり暴れないのは結構なことだ。それだけ長く生きられる」
ロベールはアサシンの脚を開こうとしたが、両足を繋いだ鎖がそれを阻止した。不機嫌そうな表情を浮かべて寝台を離れると、片手に剣を持ってすぐ戻ってきた。鞘は既に取り除かれていた。
「邪魔だ」
そう言って足枷の鎖へと刃を落とす。鎖は砕け散り、そのまま寝台に刃が刺さった。ロベールはそれをすぐさま引き抜き、乱暴に剣を床へ投げ捨てる。
…逆らったり抵抗すれば、容赦なくこの刃で刻まれるのだろう…
下着を掴まれ、剥がされる。剥き出しになった下腹部。ロベールは脚の間へと割り入った。邪魔な物は取り除かれた。茂みの中に、ロベールの指が入り込む。アサシンは息を飲んだ。
手は脚の付け根をいやらしく撫で、袋を揉みしだき、穴へと辿り着く。中指でそこを無理矢理こじ開けられると、微かにうめき声が上がった。苦しげなその声に興奮する。中を探り、指をもう一つ加えてそこを広げていく。異物感に抵抗するそこは指をきつく締め上げた。
アサシンの不規則な呼吸音が聞こえ、苦しみに耐えているのが判る。
肌は熱く、汗ばんでいた。
 
目を閉じ眉間に皺を寄せて耐える姿は、神に祈る顔に似ていると思った。捲り上げられたローブが、神学者のものだという事がそう思わせたのか。
体の中心が熱くなるのを感じ、ロベールは指を引き抜いた。ベルトを外し、己のローブを脱ぎ捨てる。堅く熱くなっている自身を衣服の中から取り出すと、先程まで指が入っていたそこへとあてがう。
挿入すると、全てを埋めようと腰を進めた。指とは比べものにならない圧力が加えられる。背を反らせて痛みから逃げようとするが、ロベールはそれを追い、更に深く打ち込んだ。
二人分の重みが、振動が、縛られたままの手首を痛めつける。耐えられずうめき声が漏れた。
 
締め付けに阻まれ、奥へ達することは出来なかった。
ロベールは楔を引き抜くとアサシンを俯せにして、腰を持ち上げた。膝で立たせ、突き出される尻。その割れ目の端に、再び熱を打ち込む。
「ああぁ…!」
引き抜かれ安堵していた場所に、再び異物が侵入を始める。苦しそうな表情とうめき声。痛みに耐えるために拳は強く握りしめられ、腕にはロープが食い込んだ。
奥への侵入を拒む体に、ロベールは無理矢理押し込んでいく。互いに汗がにじみ出て体を伝い流れた。
…この男を油断させるにはどうすればいい…
与えられる痛みに耐えながら、アサシンは考えていた。
「全てを受け入れろ…すべて…」
ロベールの口から小さな言葉が漏れた。
…それが、お前の望みなのか…
 
ふと体の力を抜いた。呼吸は短く、吐き出される息は熱く甘いものへと変わった。頑なに侵入を拒んでいたそこは、ロベールを受け入れ始めた。
「…はぁ…あぁ…ぁ……」
微かに聞こえる喘ぎ声に戸惑う。
こんなはずではない。今までこうしてきた者達は全て、やめてくれと許しを請い、呪いの言葉を私に向けた。この男もそうだと思っていた。違う?、何が違う??
アサシンの体に全てを埋め込むと、背中から抱きしめた。後ろに縛られた手が邪魔をしたが、構わず抱き、腰を揺らす。規則的なリズムを刻む。アサシンの顔が近い。閉じた瞳に、上気した頬に、欲情する。
様子がおかしい…でも…
ロベールは片手をアサシンの股間に伸ばした。そこは堅く隆起し、反り返り、先端を濡らしていた。やんわりと掴むと、アサシンの体が跳ねた。強く握り擦ると、声にならない悲鳴が上がった。同時にロベールは酷く締め付けられ、耐えられずにアサシンの中に放った。
「ああっ…!」
体内に吐き出される熱を感じて驚き、アサシンは叫び声を上げた。
ロベールはそれでも収まらない欲望を乱暴に引き抜いた。
もっとだ…
 
ロベールはロープを解き、アサシンの両腕を解放した。再び仰向けに寝かせ、脚を開く。さっきまで繋がっていたそこに、再び挿入を始める。素直に全てを受け入れる体。顔を見れば、薄く開いた瞳は潤み、ロベールを映していた。
アサシンはロベールへ片手を伸ばした。ロベールはその手を掴み、背中に誘導した。残った手も背中へとまわり、アサシンはロベールを引き寄せた。
腰を揺らすと甘い声が漏れた。頭一つ違う小さな体。暗殺という任務のために鍛えられた体と精神。それが墜ちていく。感じている。強く抱きしめ合って、唇を重ね、舌を絡め合う。繋がった部分が締め付けられる。
こんなはずではなかった。いつものように体を汚される屈辱と、痛みと、死を与えるはずだった。この男はいったい何だ?、何を考えている…?
疑問が浮かぶが、耳元で聞こえる喘ぎ声に、その全ての疑問が消されていく。もう、止めることは出来ない。
ロベールは2度目の熱を放つと、そのまま目を閉じた。抱きしめ、繋がったままの体。余韻を楽しんでいた。
 
やっと、自分と同じものを見つけた気がした。この男は自分と同類だ。そうか、私は探していたんだ。見つからないから、いつも苛立っていたのか。私に手を伸ばし求めたこの男なら、全てを許し、本当の自分を受け入れてくれるかもしれない…。熱心なキリスト教徒でありながらその教えに背き、同性しか愛せない自分を。
 
アサシンは腕を開いてロベールを解放した。ロベールはゆっくりと身を起こし、腰を引いた。アサシンは体を震わせた。
呼吸を整えようとしているアサシンを背に、ロベールは怠そうにテーブルへ歩いた。喉が渇いていた。残っていたワインを、瓶から直接飲んだ。
アサシンはそっと体を起こした。窓へと寄り、外を見る。逃げられそうな足場、掴めそうな突起、降りられそうなものを瞬時に判断する。
破壊された足枷の鎖が、かちゃりと音を立てた。
ロベールはハッと気がついて振り返ったが、アサシンの姿は無かった。
 

 
あれは、逃げるための芝居だったのか…
窓際に寄り、アサシンが消えた闇を見る。乱れたアサシンの姿に気をよくして、全ての枷を外した自分の落ち度か。
 
外はまだ暗い。いくら探してもアサシンなど見つかりはしないだろう。
アル・ムアリムの弟子である事は確かだ。探そうと思えば探せるのか?、いや、探さなくても向こうからやってくるだろう。
必ず私の元へ。
 
END.
 

 
最後はつじつま合ってるかな?平気だよな?多分平気!という感じで公開しております。まぁ…萌えの勢いだけでも伝わってくれれば良いなと思います。足りない部分は読んで下さった方の脳内変換でお願いいたしたく…!
 
MYロベール様の鬼畜さと飢えてる感を出そうとしたらこんな事に。書き始めた当初はロベール様はこんな狂った人じゃなかったのですが(ただの鬼畜でした←それもどうかと)、途中でテンプル騎士団の本を読んだら変わりました。MYロベール様は熱心なキリスト教徒であるが故に自分の本質(ゲイ)がねじ曲げられて、狂っちゃった感が出せたらイイナとか思います。