エルサレムの街を歩く。 色々な宗派、多くの巡礼者達とすれ違う。神学者の衣服を身につけた自分もまたその中の一人。 エルサレムやダマスカスはアッカと比べて明るく、豊かな雰囲気だ。頼まれた調査をしながら、ふとそんな事を思った。サラディンの統治がそうさせているのか?。 先の大導師の時代、かの英雄の暗殺指令は何度かあったようだが、自分にその任務は回ってこなかった事を思い出す。何度も暗殺指令が下ったというのにサラディンは死ぬこともなく、今もこの地の何処かで生きている。 少し、疑問が浮かんだ。 マシャフに戻り、マリクと夕食を摂りながらその疑問を話してみる。口に運びかけた葡萄が一粒、マリクの手から滑り落ち、ころころと床に転がった。 マズイ事を聞いてしまったようだ。 「確かに…な…何人かは行っているらしいが…」 マリクが目を反らした。そんなにマズイ事なのか? 「あー…その…俺も噂で聞いただけなんだが…詳しいことはよく知らないんだが…」 こんな歯切れの悪いマリクも珍しい。いつもなら余計な事までべらべらと喋るのに。 「暗殺しに行った者は全てサラディンに…」 「…殺されたのか?」 「ね…寝取られたようなんだ」 「え…?」 マリクの顔は青ざめていた。それに同調するかのようにアルタイルの顔も青ざめた。被害にあった仲間には悪いが、サラディン暗殺の任務が回ってこなくて良かったと二人は思った。
END.
WIKIに、サラディンは少年を愛したらしいと書いてあったのでつい…
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