リチャード王は返事を待っていた。
何日か前、王はアサシン教団へ書状を送った。それは非常に奇妙なもので…
 
恋をしていた。
アルスーフで初めて出会い、その気高き白い姿に一目惚れをした。鋭く強い剣技、しなやかな体の動き、礼節をわきまえたその振る舞い。顔はフードで隠れていてよく見えなかったが、低く落ち着いた声から察するに、30代前半といった所か。ロベールよりかは若そうだ。
 
強い者が好きだ。ロベールは強かった。しかしそのロベールを倒したあの者はもっと強い。何としても手に入れたい。あのたくましい腕に抱かれてみたい…。
ぽぅっと頬を染めると、リチャード王は手っ取り早く書状を書いた。手に余っていたイスラムの人質200人と、アサシン1人との交換。平和を愛するアサシン教団なら、喜んで差し出すかもしれない。
しかし普通に考えれば、そんな事はない。この人質はサラディンとの戦いで得たもので、アサシン教団には何の関係もない。
 
しかしというかやっぱりというか、教団の大導師マリクの返事は冷ややかなものだった。
 
『平和的にこの事態を解決したいのは山々だが、我らの教義には兄弟を危険にさらすべからずというものがあり、貴公の申し出は受け入れられない。それに、この問題はサラディンと貴公十字軍の問題であり、我がアサシン教団は何の関係もない』
 
解ってはいたが、これで少しの望みは消え失せた。後は力づくしかないな。
ふぅっと溜息を出すと、リチャード王は人質200人を処刑する命を出した。
 
END.
 

 
Wikiに、リチャード王は同性愛者だったとか書いてあったのでつい…。